Isao Endo  遠藤 功

遠藤功が「現場力」を語るコラムをお届けします

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連載コラム「現場通信」

現場通信vol.10 悲観でも楽観でもなく

[2009-01-05]

 このコラムの執筆をずっとさぼっていました。言い訳にすぎないのですが、昨年9月から早稲田大学ビジネススクールの運営責任者(肩書きはMBA/MOTプログラムディレクター)に就任し、会議やら打ち合わせやら何かと忙しく、余裕がありませんでした。ビジネススクールの教職に就くにあたっては、アドミ的な仕事は一切やらないつもりでしたが、いつの間にかお鉢が回ってきてしまいました。やるからには早稲田のビジネススクールがさらに発展するよう、恩返しの意味を込めて「ひと仕事」しようと奮戦中です。(その中身についてはいずれこのコラムで紹介したいと思います。)
 コラムの執筆をさぼっている間に、世の中は激震に見舞われています。昨年9月15日のリーマンショックを引き金に、世界的な景気後退が一気に押し寄せ、世界同時不況の様相を呈しています。2009年が大変な年になることは間違いありません。
 日本でもあのトヨタが赤字に転落し、ホンダもF1撤退を表明、モノづくりの現場では派遣切りによる大量の失業者の発生が深刻化しています。メディアなどでは、派遣切りを人道的な問題として大々的に報じていますが、10月以降受注が対前年比30%減、40%減という異常な事態では、雇用を抱え込む訳にはいかないという経営判断も理解せざるをえません。(但し、あまりにも安易に非正規社員を増やし、現場をコストしかみていない経営のあり方は、根本的な問題があると思っています。)
 こうした経済環境を多くの人は悲観的に見ています。「全治三年だ」「いやいや5年はかかる」など長期的な低迷を予見する声が大半です。一部には、今年の後半から上向きになるとする声もありますが、それとて「底を脱する」という意味合いにすぎず、誰も「元に戻る」などとは考えていません。
 私はマクロ経済の専門家ではありませんから、景気回復の予測をすることはできません。したがって、今の状況を悲観的にも、楽観的にも捉えていません。歴史が繰り返してきたように、長い目で見れば連続的な景気波動のボトムにいるのだと客観的に認識するだけです。
 しかし、経営というミクロの視点で見ると、この世界同時不況は日本企業にとって絶好のチャンスであることは間違いありません。その理由は二つあります。
 ひとつ目は、危機感と緊張感によって自らを引き締め直す好機であるということです。多くの日本企業はここ数年の世界的な好景気による成長で、知らぬ間に「緩んでいた」側面が多々あります。「成長はすべてを癒す」とよく言われますが、その一方で成長は企業内に巣くう問題に蓋をしてしまうという害ももたらします。問題があっても「成長しているからまあいいか」と目をつぶってしまうのです。今こそ、成長の陰に隠されていた非効率、生産性の悪さ、品質やサービスの劣化など根幹の競争力を点検し、磨き直す絶好の機会です。
 30%、40%という受注の減少は、今ある仕組みや仕事のやり方を少し改善すれば対応できるというレベルではありません。こうしたBig Shockを糧にして、これまでの仕組みやプロセス、さらには人の意識や行動を総点検し、抜本的な変革につなげることが、今求められています。
 日本は「外圧」がないと変われない、「黒船」が来ないと変われないとよく言われます。しかし逆に見れば、「外圧」「黒船」が来れば日本は大きく変貌できるということでもあります。リーマンショックを契機としたこの世界同時不況は、日本にとってまさに「外圧」であり「黒船」なのです。
 二つ目の理由は、この世界同時不況はそれぞれの業界における「ゲームのルール」が変わるプロセスでもあるということです。これまでの業界の秩序が崩れ、新たな「ゲームのルール」を仕掛けたところが、この不況「後」の新たなリーダーとなるのです。
 短期的にはどの企業も苦しいのは間違いありませんが、その体力や競争力には大きな違いがあります。この苦境を単に凌ぐだけでなく、今という「時」を戦略的に活かす「構想力」が求められています。
 比較的体力のある日本企業が、積極的にM&Aを仕掛けています。確かにM&Aは「ゲームのルール」を変える有効な手段ですが、「仕掛ける」というのは決してM&Aのような「飛び道具」だけではありません。
 より重要なのは「独自技術」です。苦しいからといって技術開発への投資を怠ってはいけません。相対的な体力差がある今こそ、戦略分野への重点的な投資を行い、不況「後」に備えることが大切です。
 不況「後」の優劣は、「今」が決めるのです。

 1月下旬に1年ぶりの新刊「現場力復権」が東洋経済新報社から出版されます。「現場力を鍛える」を出版したのが、今からちょうど5年前の2004年2月。5年の歳月を経て、現場力について再考し、現場力三部作の続編として書き下ろしたのが今回の本です。是非お読みください。