Isao Endo  遠藤 功

遠藤功が「現場力」を語るコラムをお届けします

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早稲田大学大学院教授、株式会社ローランド・ベルガー会長を務める遠藤功のプロフィールを紹介します

講演活動についての概要を紹介します

『現場力を鍛える』『見える化』など、遠藤功の書籍を紹介します

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一流のビジネスパーソンを目指す人のための総合型ビジネススクール「カラーズ・ビジネス・カレッジ」を紹介します

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連載コラム「現場通信」

現場通信 vol.1 「教える」ということ

[2007-08-01]

 このコラムでは私が日頃感じていること、思っていることを徒然なるままに書き綴っていこうと思います。経営コンサルティングや研究活動を通じた企業経営の現場、ビジネススクールでの教鞭を通じた教育の現場など現場の目線、現場からの発想を大切にしながらお届けします。

 第1回目のテーマは「教える」ということです。私は4年前から早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとっています。ビジネススクールとは専門職大学院と呼ばれる大学院ですが、その主たる目的はまさに“経営のプロ”を育成することです。私は「経営戦略」「オペレーション戦略」という授業を担当しています。(それ以外にゼミを受け持ち、またシンガポールの南洋理工大学とのダブル・ディグリー・プログラムの授業なども担当しています。)

 私が授業を行う際に大切にしていることが3つあります。ひとつは「反復」です。私は2回目以降の授業の最初に毎回15分から20分かけて、前回の授業の復習を必ず行います。キーポイントをホワイトボードに板書しながら、前回何を学んだのかを確認するわけです。1コマ90分の授業において、15~20分は非常に貴重です。にもかかわらず復習にそれだけの時間を充てるのは、知識は積み上げていくべきものであり、前回の学びを腹に落として理解しなければ追加的な知識は役立たないと思うからです。
 復習など個人が主体的にすべきものであって、大学院レベルでわざわざ時間をとってするべきことではないと思われる方もいるかもしれません。しかし、この復習が“接着剤”となって前回の授業と今回の授業がつながるのも事実なのです。自分で復習することはもちろん大切ですが、重要なポイントを見逃していたり、理解がずれていたり、勘違いしていることも往々にしてあります。これが復習によって是正されたり、理解が深まったりするのです。
 モノとモノを結合させようとすれば接着剤が必要です。プラモデルを作るときに接着剤がムダだと思う人はいないでしょう。学びも同様です。復習という反復は接着剤であり、ムダどころかこれがなければ体系的な知識の理解にはつながらないのです。

 二つ目は「考えさせる」ことです。私はビジネススクールは知識を学ぶところではないと考えています。もちろん経営に関する様々な知識を習得することは必要ですが、知識を得たからといって優秀な経営者やビジネスマンになれるわけではありません。より重要なのは自らの思考回路を磨き、最善の判断・意思決定を行うことです。ビジネススクールとはまさに経営者としての「考える訓練」をする場なのです。
 したがって、私の授業はすべてケース・スタディ(事例研究)をもとに行っています。授業で知識を詰め込むことはしません。ケースといっても、ハーバードで作っているメジャーなケースだけではなく、日経新聞やビジネス雑誌の記事などをミニケースとして使いながら、より身近なテーマで考えさせるようにしています。具体的なケースにもとづいて、自分がその立場だったらどう考えるのか、どう行動するのかを考えさせることに主眼を置いているのです。
 ケースに正解はありません。経営環境は変化しますから、あるケースでは妥当であったことが他の場合に当てはまる保障はありません。こうすれば必ずうまくいくなどというセオリーは存在しないのです。だから、大切なのは自分自身の頭で考え抜いて、その時その時の最善の判断・意思決定を行う能力を磨くことなのです。
 ケースの分析や解決策の立案においては、チームで取り組むことを奨励しています。ひとりで考えるのではなく、様々な異なる意見、考え方の中に身を置き、交流することによって、思考回路は太くなっていくのです。

 三つ目は「時流を盛り込む」ことです。ケース・スタディといっても何十年も前の古いケースでは臨場感が欠落します。古いケースであっても、本質的なことを学ぶのであればいささかも価値は目減りしないのですが、やはり古いというだけで時代遅れという先入観で見られがちです。
 そこで、私は常に新たなネタ捜しをしながら、学生が興味を持ちそうな“材料”を探し、盛り込むようにしています。今年の春の授業では今話題の「旭山動物園」を題材に差別化を考えさせました。(授業に先立って、私自身も取材に赴きました。)旭山動物園から導き出される学びのポイントは実に古典的で、オーソドックスなのですが、題材が時流であればあるほど学生は興味を示し、より深く理解させることが可能です。

 これら3つのポイントは教職にある者にとっては何も特別なことではなく、すべて当たり前のことなのかもしれません。重要なのは教える側が努力を惜しまず、知恵を出し、創意工夫を続けることだと思っています。現場力の教師が自分の授業を“改善”できなくなったらおしまいです。
 陳腐化した教師が、陳腐化した知識を一方通行的に押し付けていたのでは、優れた人材が育つはずもありません。教える側がプロにならなければ、ビジネスのプロを育てることなど不可能です。教えることの難しさを楽しみながら、さらに知恵を磨いていきたいと思っています。
                                                                以上