Isao Endo  遠藤 功

遠藤功が「現場力」を語るコラムをお届けします

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連載コラム「現場通信」

現場通信 vol.9 シンガポール南洋理工大学にて

[2008-07-23]

 もう2か月近く前のことになりますが、5月26日から1週間、シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University、略称NTU )で授業を行ってきました。このプログラムは早稲田大学ビジネススクール(WBS)とNTUの両方のMBAディグリーが同時にとれるジョイント・プログラムとして昨年から始まった画期的なものです。
 NTUはシンガポールではシンガポール国立大学と並ぶ名門の難関大学で、そのMBAプログラムは世界的にも高い評価を受けています。このジョイント・プログラムではNTUの教授陣はStrategyやFinanceといった一般的なMBA科目を担当し、WBSの教授陣は主にMOT(Management of Technology )系の科目を教えています。
 私の担当科目は「Operational Excellence 」という科目です。トヨタ、花王、松下といった日本を代表するメーカーや夷隅ゴルフクラブ、原信といったサービス業、流通業を取り上げ、経営におけるオペレーションの位置付けやオペレーションに内包される組織能力をどのように高めるかについて、議論し、学習しています。1コマ90分を15コマ行います。
 昨年もこの科目を担当したのですが、その時は2週間で行いました。今回は1週間に縮めてもらい、さらには学生側の要望で4日間に短縮したので、1日に4コマを詰め込むという濃密なものとなりました。1日6時間の授業を英語でこなすと、さすがにへとへとになります。それでも、学生たちはとても熱心にクラス討議に参加してくれるので、非常に充実した15コマとなりました。
 受講生の数は19名。国籍はシンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、香港、米国、日本の7カ国と国際的です。
 トヨタの経営などをよく知っている日本人学生は、経営におけるオペレーションの重要性をよく認識しています。しかし、外国人の学生がどこまでオペレーションに関心を持つかは、当初、私も半信半疑でした。
 しかし、授業を行ってみると、皆大変高い関心を持っています。やはり、トヨタの「カイゼン」のパワーなどをよく知っていて、そうした組織を作り上げるためにはどうしたらよいのかとても高い問題意識を持っています。
 但し、Operational Excellenceをどう実現するのかのアプローチ、方法論には大きな見解の違いがあります。
 私は以前より、Operational Excellenceを実現するには大きく分けて2つのアプローチがあると思っています。ひとつは長期雇用を前提に、共通の価値観を共有しながら、チームや組織としての能力を地道に磨いていくアプローチです。これをValue-driven Operational Excellenceと呼びます。これまでの日本的経営を支えてきた方法論と言えます。
 もうひとつは、個人に対する「報酬」を明確にし、リターンを得ることをバネにして、オペレーションの生産性や品質を上げるアプローチです。人間誰でも目の前に“ニンジン”をぶら下げられれば、一生懸命働きます。これをIncentive-driven Operational Excellenceと呼びます。資本の論理を掲げる米国企業などによく見られます。
 この二つのアプローチはどちらがよいとか悪いとかという話ではありません。それぞれの国の歴史や文化、価値観などによって、どちらのアプローチを軸とすべきかは自ずと変わってきます。
今回の授業でも、様々な意見が出されました。合理性の国、シンガポールの学生は「金銭的なリターンなしでどうしてそんな一生懸命働けるのか?」と強く主張します。ヒューレット・パッカード(HP)に長年勤める米国人エンジニアの学生は、「価値観を共有することでSense of Familyが生まれ、個人も企業も持続的に発展できる」と言います。資本の論理一辺倒に思われがちな米国ですが、GE、IBM、J&J、3M、そしてHPのような企業は創業以来の独自の価値観をとても大切にしています。
それでは、日本企業はどうなのでしょうか?これまでは、言うまでもなくValue-drivenだったと言えるでしょう。長期安定雇用を前提に、家族意識を醸成しながら、みんなでひとつになって頑張ることが、日本企業の競争力を底支えしていました。
 しかし、環境は大きく変わろうとしています。若い世代に具体的なIncentive も示さずに、知恵やアイデアを求めても動きません。労働環境も変わってきています。あのトヨタでさえ、QC活動などの「カイゼン」活動には残業代を支払うことを決めました。現場が自発的に取り組む「自主研」(カイゼンのための自律的、自発的な勉強会)を“無償の善意”とする時代ではなくなりつつあるのです。しかし、そうした時代の流れだからこそ、逆にValue-drivenを大切にしなければならないとも思うのです。
 ありきたりですが、答はそのバランスにあると思います。Value-drivenとIncentive-drivenのよさをミックスしたハイブリッド・モデルの構築が必要です。21世紀型のOperational Excellenceモデルを構築できるかどうかが、日本企業が熾烈なグローバル競争に勝ち残れるかどうかの鍵となるでしょう。